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----目次----
●運動解析プログラムKMAPについて
最新バージョンは KMAP128 です.
KMAPにて実際に飛行機の運動解析やシミュレーション等を行うことで,飛行機の運動についての理解が深まります.
KMAPの最大の特徴は,飛行機の形状を3面図に表現できることと,その3面図から飛行機の空力係数を自動的に出力できることから,飛行機の運動計算が直ちに可能となることです.これはKMAP以外のツールではできません.ぜひKMAPを用いて飛行機の運動を楽しんでください.(ただし,KMAP研究会の運営資金のために有料とさせていただいております)
(詳細は下記の専用ホームページをご覧ください)
運動解析プログラムKMAPの専用ホームページへ
●ディジタル制御ツールボックスについて
これまでKMAPのオプションソフトとしていたディジタル制御ツールボックスは,KMAP本体にインストールしましたので,ご自由にお使いいただけます.
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「KMAP研究会-技術講座」(YouTube)
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KMAP研究会-技術講座の目次(pdf)
技術講座1【オイラー角とクォータニオン】
航空機の空間上の姿勢を表すには,オイラー角では不具合があるので,替わりにクォータニオンを用いる必要がある,と主張する論文が見受けられます.本当にそうなのかについて考えます.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1集)」)
技術講座2【実用的な制御技術-伝達関数】
制御において最も基本的な伝達関数について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1集)」)
技術講座3【実用的な制御技術-伝達関数の基本要素】
伝達関数を表現するのに便利な基本要素について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1集)」)
技術講座4【実用的な制御技術-フィードバック制御とは】
フィードバックによる制御によって何がどう変わるのか解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1集)」)
技術講座5【車の車庫入れ(通常車庫入れ)】
2輪車両の中点における速度と角速度を制御することにより,通常車庫入れの方法について,非線形最適化問題として解きます.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1集)」)
技術講座6【簡単に解ける非線形最適制御問題-2輪車両の縦列駐車】
車両の移動領域の制限に応じて,自動的に絶妙な切り返し操作を行って,最適な操作で縦列駐車を実現する解を得る.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1)」)
技術講座7【揚力はどのように発生するのか】
揚力の発生は,「翼のまわりに循環が生じるからである」と説明されることが多いですが,循環は理解が難しい概念です.そこで,ここでは「循環」という手段を用いないで,揚力の発生について説明をしてみました.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1)」)
技術講座8【円弧翼は迎角零でもなぜ揚力が発生するのか】
平板翼は迎角0では揚力が0となりますが,円弧翼(キャンバーをもった厚さのない翼)は上下面が同じ曲率であるのに,迎角0でも揚力を生み出し,しかも非常に効率がよいことが知られています.しかし,先人達にはその理由が分かりませんでした.ここでは,その理由について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1)」)
技術講座9【飛行機の縦系の運動方程式と空力係数】
解析ソフトKMAPを用いると,飛行機の縦系の運動方程式に必要な空力係数が出力され,運動シミュレーションが簡単に行えます.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1)」)
技術講座10【飛行機の横・方向系の運動方程式と空力係数】
解析ソフトKMAPを用いると,飛行機の横・方向系の運動方程式に必要な空力係数が出力され,運動シミュレーションが簡単に行えます.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1)」)
技術講座11【実用的な制御設計法-応答特性の改善】
フィードバック制御系の応答特性を改善する方法について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1)」)
技術講座12【実用的な多目的制御設計法-ピッチ角制御】
(制御設計チャレンジ)
制御設計に自信のある方は,この例題をぜひ設計して
その結果をメールで送っていただければ幸いです.
(メールアドレス:QYQ00437@nifty.com)
下記資料をご覧ください.
制御設計チャレンジの資料
技術講座13【実用的な多目的制御設計法-ロール角制御】
(制御設計チャレンジ(2))
さらに難しい問題です.制御設計に自信のある方は,
この例題(2)をぜひ設計して,その結果をメールで
送っていただければ幸いです.
(メールアドレス:QYQ00437@nifty.com)
下記資料をご覧ください.
制御設計チャレンジ(2)の資料
技術講座14【極の実部領域を指定したロール角制御】
フィードバック制御系の極の実部領域をある範囲内に指定した場合の設計法について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1)」)
技術講座15【非線形最適制御-倒立振子の振り上げ問題】
倒立振子の振り上げ問題とは,「台車に乗った倒立振子を操作力によって指定した時間に振り上げ静止せよ」という問題です.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1)」)
技術講座16【非線形最適制御-走行クレーンの振れ止め問題】
走行クレーンの振れ止め問題とは,「クレーンが指定した距離を走行して停止したとき,クレーンの振動も静止させる」という問題です.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1)」)
技術講座17【横風に強いNDD機の飛行特性】
飛行機の弱点は横風には弱いという点です.その原因は横風を受けると機体が横滑りして,垂直尾翼の方向安定により横風の方向へ機首を向けるヨー運動が発生することと,横滑りによる上反角効果により反対方向にロール運動が発生して滑走路に翼端が接触してしまうことです.
一方,飛行機の設計では,方向安定と上反角効果が要求されています.それらがないと飛行特性は問題となるからです.ところが,その両者を同時になくすと,飛行特性上安定となることを発見しました.この方向安定および上反角効果を同時になくした機体をNDD機と名付けました.ここでは,横風に強い飛行機の開発可能性について説明します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1)」)
技術講座18【KMAPの使い方(1),伝達関数の解析】
解析ソフトKMAPを用いると,制御系の伝達関数を簡単に解析することができることを解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1)」)
技術講座19【KMAPの使い方(2),フィードバック制御の解析】
解析ソフトKMAPを用いると,フィードバック制御系の特性を簡単に解析できることを解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1)」)
技術講座20【KMAPの使い方3,航空機の飛行制御1】
飛行機のフライ•バイ•ワイヤ(FBW)といわれる操縦装置は,コンピュータが異常信号により舵面をフル舵角した場合,40Gを超える荷重で機体が破壊される可能性があります.FBWの制御則は,とにかく安全性を最優先して設計する必要があります.KMAPを用いて安全な飛行制御系を設計しましょう.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1)」)
技術講座21【KMAPの使い方(4),KMAP線図】
フィードバック制御系のブロック図を自動的に作画する機能について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第2)」)
技術講座22【KMAPの使い方(5),状態方程式】
運動方程式を状態方程式で表して,解析ソフトKMAPを用いて解析する方法について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第2)」)
技術講座23【最適レギュレータの制御性能】
現代制御理論の最も基本的な手法である最適レギュレータについて解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第2)」)
技術講座24【オブザーバの制御性能】
制御系において,直接観測できない状態変数を推定するオブザーバについて解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第2)」)
技術講座25【KMAPの使い方6,飛行機の形状(機体3面図)】
飛行機の形状を機体3面図として表現する方法について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第2)」)
技術講座26【KMAPの使い方7, 飛行機の空力係数の推算】
飛行機の空力係数を推算する方法について解説します
技術講座27【KMAPの使い方(8),飛行性能要求を満たす航空機】
解析ソフトKMAPを用いて,飛行性能要求を満たす航空機を策定する方法について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第2)」)
技術講座28【KMAPの使い方(9),縦系のエレベータ操縦特性】
解析ソフトKMAPを用いて,飛行機の縦系の操縦特性を解析する方法について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第2)」)
技術講座29【KMAPの使い方(10),横・方向系の飛行特性】
解析ソフトKMAPを用いて,飛行機の横・方向系の飛行特性を解析する方法について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第2)」)
技術講座30【飛行機のエレベータ操縦と推力操縦との違い】
飛行機の縦系のエレベータ操縦と推力操縦との違いについて解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第2)」)
技術講座31【制御設計と運動シミュレーション】
解析ソフトKMAPを用いて,飛行機の制御系設計とシミュレーション計算する方法について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第2)」)
技術講座32【航空機のスピン運動】
双発の航空機において,左エンジンアウト時にラダーの当て舵ができなかった場合を考えます.パイロットがラダー操作が遅れると,機体は左に振られながらスピン運動に発展してしまいます.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第2)」)
技術講座33【微分方程式の数値解】
解析ソフトKMAPを用いて,各種の微分方程式をシミュレーション計算する方法について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第2)」)
技術講座34【航空機の高迎角特性】
解析ソフトKMAPを用いて,航空機の高迎角特性を解析する方法について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第2)」)
技術講座35【H∞制御系】
H∞制御系は,外乱の応答をある値以下にする外乱抑制制御,プラントの不確定要素に対して安定を保つロバスト安定問題など現代制御理論の代表的な設計法の1つです.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第2)」)
技術講座36【非線形計画法を簡単に解く方法】
解析ソフトKMAPを用いて,非線形計画法を簡単に解く方法について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第3)」)
技術講座37【縦静安定のない機体は飛行できるのか】
縦静安定がある飛行機は,外乱で迎角が一時的に増加しても頭下げのモーメントが作用して元の迎角に戻ろうとする性質を持ちます. 縦静安定を弱くした特性は多くの戦闘機が採用しています.理由は,全動の水平尾翼の負担が軽減されること,機首上げ操作が素速く達成できる(高運動性)等です.
それでは,制御装置のない飛行機が,縦静安定がない状態で飛行できるのでしょうか.これについて解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第3)」)
技術講座38【ジュコフスキー翼の流れ】
ロシヤのジュコフスキーが発表した等角写像を用いた翼の厚さやキャンバー(反り)を考慮できる画期的な翼型の設計方法について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第3)」)
技術講座39【長距離機で近距離を飛ぶとなぜ効率が悪いのか】
乗客数130名,航続距離4,000kmで最適化設計した旅客機を用いて2,000kmの近距離を飛行した場合に対して,乗客数130名,航続距離2,000kmで最適化設計した旅客機との必要燃料を計算して比較してみます.[#旅客機の航続距離]
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第3)」)
技術講座40【指定した位置と時間にドローンを静止させる2点境界値問題】
ここでは,場所と時間を指定してドローンを空中静止させる操作を,2点境界値問題として解いて実現します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第1)」)
技術講座41【船の運動制御】
船は,水から受ける付加質量の影響から方向不安定となります.ここでは,船の運動特性について述べた後,船 の操縦性を良好化するための制御について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第3)」)
技術講座42【CFDの基礎】
1800年代に粘性のある流れを模擬できる「ナビエ・ストークス方程式」が発表されました.しかし,一般の形で解析的に解くのは困難でした.その後,コンピュータの発達とともに,物体と流れの空間を差分近似によりナビエ・ストークス方程式を直接解いていく“CFD (Computational Fluid Dynamics)”といわれる方法が出現しました.ここでは,円柱の後ろにできる渦をCFDで再現してみます.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第3)」)
技術講座43【有限要素法による弾性解析の基礎①】
連続体モデルとして記述される工学分野の現象を,有限個の自由度で近似して解析する方法として有限要素法が広く使われています.ここでは,有限要素法を用いた構造物の弾性解析の方法について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第3)」)
技術講座44【有限要素法による弾性解析の基礎②】
前講座43では,三角形ひずみ要素により,構造物の弾性解析について述べました.ここでは,より精度の良い四角形アイソパラメトリック要素を用いた有限要素法による構造物の弾性解析の方法について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第3)」)
技術講座45有限要素法による弾性解析の基礎③】
構造の強度評価に用いられるミーゼス応力について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第3)」)
技術講座46【ペーパープレーン(紙飛行機)の飛行特性】
ペーパープレーン(紙飛行機)の空力中心および重心はかなり後方にあるようです. ここでは具体例にて飛行特性の面から検討してみます.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第3)」)
技術講座47【人力飛行機の飛行特性】
人力飛行機は,人を乗せた状態で100kgf程度という非常に特殊な飛行機です.ここでは,人力飛行機の航続距離を長くする工夫と飛行特性上の特徴,および飛行時の注意事項などについて解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第3)」)
技術講座48【ディジタル制御1,シミュレーションの高速化】
解析ソフトKMAPを用いて2点境界値問題を実時間で解く際に,その基礎となる技術であるシミュレーションの高速化について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第3)」)
技術講座49【ディジタル制御2,非線形シミュレーションの高速化】
解析ソフトKMAPを用いて,非線形の運動方程式による2点境界値問題を実時間で解く際に必要なシミュレーションの高速化について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第3)」)
技術講座50【ディジタル制御3,実時間最適制御-車の走行時の障害物回避】
車両が走行時に突然2つの障害物が現れた場合に回避運動する実時間最適制御問題について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第3)」)
技術講座51【線形計画法,非線形計画法および整数計画法の例題をKMAPで解く(その2)】
近年,複雑な最適化問題を解くツールの重要性が高まっています.最適化問題にはいろいろな種類があります.
ここでは線形計画法,非線形計画法,さらに難しい整数計画法の問題などを簡単に解くことができるKMAPゲイン最適化法について解説します.
(テキスト「KMAP研究会-技術講座(第4)」)
●KMAPは何ができるのか

制御設計の方法
制御系のフィードバックゲインを求めたい場合,どのような方法を用いるのがよいでしょうか.最適レギュレータなどに代表される現代制御理論による方法が多く使われています.それらの方法は,基本的には運動方程式の全ての状態変数をフィードバックする必要があり,アクチュエータのダイナミクスを考慮できません.また,利用できない状態変数をオブザーバで推定してフィードバックすると安定性上問題が生じる可能性があります.評価関数も解析式として利用しやすい形に限定されるという問題点もあります.KMAPでは,そのような種々の制約等に制限されない方法として,モンテカルロ法を応用した「KMAPゲイン最適化法 」という手法を開発しました.難しい理論は使いません.昔の設計者がフィードバックゲインを1つずつ変化させて,根軌跡から特性根(極)の位置,周波数特性から安定余裕量,シミュレーション特性などを確認して決めていった気が遠くなるような作業を,コンピュータの力を借りて評価関数を満足する最適なフィードバックゲインを自動的に何回も繰り返す(~100万回程度)ことにより求める方法です.非常に良好な結果が得られることを確認しています.使い方も簡単ですので,ぜひ使っててただければ幸いです.下記に,飛行機のピッチ角制御系の設計例を示します.
KMAP法で簡単に設計できる多目的制御-ピッチ角飛行制御系
飛行機の運動方程式
飛行機の運動は計算によって非常に精度よく解析することができます.激しい運動を伴うスピン運動の解析も十分な精度で推定することができます.ただし,解析に用いる運動方程式とデータは十分な精度のものを準備する必要があります.ここでは,まず運動方程式について下記資料で説明しましょう.
飛行機の運動方程式
飛行機形状データの設定と空力係数の推算
飛行機の運動を解析するには,運動方程式に用いる空力係数を準備する必要があります.空力係数を求めるには,飛行機の形状データが必要になります.解析ソフトKMAPを用いると,飛行機の形状(3面図)に基づいてインプットデータを簡単に作成することができます.さらにKMAPではそのインプットデータを用いて運動解析に必要な空力係数を出力してくれます.ここでは,解析したい飛行機の形状をインプットデータとして求める方法とそれによる空力係数の推算について下記資料で説明します.
飛行機形状データの設定と空力係数の推算
●フライトシミュレータ
●航空機の飛行制御システムについて
●本の紹介
●「日本航空宇宙学会誌」全冊一式お譲りします(有料)
1934年の第1号から全1314冊,86年の航空宇宙の貴重な資料です.
ご興味ある方は,KMAP研究会宛に下記メールにてご連絡ください.
KMAP(ケーマップ)研究会メールアドレス
●飛行機設計の経験談紹介
私,片柳亮二は50年以上,好きな飛行機設計の仕事に携わることができ感謝しています.そこで,その経験談の一部をご紹介します.これから飛行機関係の仕事に携わろうとしている若いエンジニアの方の参考になれば幸いです.(下記をご覧ください)
飛行機設計の経験談紹介(片柳亮二)
<★★最近追加および検討中の内容★★>
・最近出版した本
●本の紹介(25)
「ベテランでも設計が難しい飛行制御系を初学者が簡単にできる制御設計法」,片柳亮二 著,2024年3月
Amazonで販売中,POD版(税込2,530円),電子書籍(税込1,500円)

本の紹介(はじめに)より
筆者は,大学院2年間,三菱重工・航空機技術部30年間,大学教授13年間,その後の学会活動等を含め約52年間,飛行機の運動制御の設計に携わってきました.メーカ在籍中には,日本で始めてのディジタルコンピュータによるFBW(フライ•バイ•ワイヤ)制御の有人機プロジェクトT-2CCV研究機や,航空自衛隊の支援戦闘機F-2機の開発において運動制御の設計を担当しました.また,QF-104フルスケール無人機プロジェクトも経験しています.特に,T-2CCV研究機は,運動性を高めるために制御なしでは不安定な機体で,これをディジタル制御によって安定化して,小牧の住宅密集地の上空で飛行するという日本にとって一大プロジェクトでした.開発は困難を極めましたがチーム一丸となって成功に導いたことは大きな自信となりました.
本書の題名の「ベテランでも設計が難しい飛行制御系」について少し説明します.一般的に,飛行機の運動制御系において最も重視されるのが安全性です.もちん応答性も重要ですが,“飛行安全”という言葉に象徴されるように,とにかく安全第一なのです.具体的には,実際の飛行制御系設計では,舵面アクチュエータの考慮,時間遅れの考慮,極の十分な安定化,安定余裕,外乱特性など,5つの要求項目をクリアする必要があります.これらの設計要求項目は,その1つ1つをそれぞれ満足するように飛行制御系を設計するのは,ベテランの設計者であれば可能です.ところがそれらを同時に満足する多目的飛行制御設計は非常に難しく,たとえできたとしても最適な設計結果とはならない可能性があります.近年発達した現代制御理論といわれる設計法でも解を得るのは難しいと考えられます.それは,制御対象のダイナミクスと飛行制御系構成要素による拡大系に対して多目的設計仕様を満足するような行列方程式を見つけ出すのが難しいからです.
本書は,絶対に不具合の許されない飛行機の運動制御設計に長年従事した経験を踏まえて,ベテランでも設計が難しい飛行制御系を初学者が簡単にできるように工夫開発した制御設計法について,例題を通して解説したものです.本書によってこの設計法を学ぶことにより,飛行機の運動制御設計の仕事に初学者でも十分に貢献できるようになれば望外の喜びです.
●上記の本「ベテランでも設計が難しい飛行制御系を初学者が簡単にできる制御設計法」に関する出前講義(小セミナー)も可能です.会社や大学,高専等で,飛行機の設計力強化を考えている方はぜひご連絡ください.(解析ソフトKMAPによる設計体験を含みます)
(メールアドレス:QYQ00437@nifty.com)
●本の紹介(24)
「KMAP研究会-技術講座(第4集)」,片柳亮二 著,2023年11月
Amazonで販売中,POD版(税込2,530円),電子書籍(税込1,500円)

目 次
技術講座51:線形計画法,非線形計画法(2),整数計画法
技術講座52:KMAPの飛行機設計自動化「23方式」の説明
技術講座53:航空機の概念設計
(本講座の一部はYouTubeで次のように検索すると 視聴することができます.本書はこのテキストです.)
「KMAP研究会-技術講座51」(なお,講座52および53は,YouTubeはありません)
●本の紹介(23)
「KMAP研究会-技術講座(第3集)」,片柳亮二 著,2023年10月
Amazonで販売中,POD版(税込2,530円),電子書籍(税込1,500円)

目 次
技術講座36:非線形計画法を簡単に解く方法
技術講座37:縦静安定のない機体は飛行できるのか
技術講座38:ジュコフスキー翼の流れ
技術講座39:長距離機で近距離を飛ぶとなぜ効率が悪いのか
技術講座40:指定した位置と時間にドローンを静止させる
技術講座41:船の運動制御
技術講座42:CFDの基礎
技術講座43:有限要素法による弾性解析の基礎①
技術講座44:有限要素法による弾性解析の基礎②
技術講座45:有限要素法による弾性解析の基礎③
技術講座46:ペーパープレーン(紙飛行機)の飛行特性
技術講座47:人力飛行機の飛行特性
技術講座48:シミュレーションの高速化
技術講座49:非線形シミュレーションの高速化
技術講座50:実時間最適制御-車の走行時の障害物回避
(この講座はYouTubeで「KMAP研究会-技術講座**」(**は講座番号)で視聴できます.本書はこのテキストです.)
●本の紹介(22)
「KMAP研究会-技術講座(第2集)」,片柳亮二 著,2023年10月
Amazonで販売中,POD版(税込2,530円),電子書籍(税込1,500円)

目 次
技術講座21:KMAPの使い方(4),KMAP線図
技術講座22:KMAPの使い方(5),状態方程式
技術講座23:最適レギュレータの制御性能
技術講座24:オブザーバの制御性能
技術講座25:KMAPの使い方(6),飛行機の形状(機体3面図)
技術講座26:KMAPの使い方(7),飛行機の空力係数の推算
技術講座27:KMAPの使い方(8),飛行性能要求を満たす航空機
技術講座28:KMAPの使い方(9),縦系のエレベータ操縦特性
技術講座29:KMAPの使い方(10),横・方向系の飛行特性
技術講座30:飛行機のエレベータ操縦と推力操縦との違い
技術講座31:制御設計と運動シミュレーション
技術講座32:航空機のスピン運動
技術講座33:微分方程式の数値解
技術講座34:航空機の高迎角特性
技術講座35:H∞制御系
(この講座はYouTubeで「KMAP研究会-技術講座**」(**は講座番号)で視聴できます.本書はこのテキストです.)
●本の紹介(21)
「KMAP研究会-技術講座(第1集)」,片柳亮二 著,2023年10月
Amazonで販売中,POD版(税込2,530円),電子書籍(税込1,500円)

目 次
技術講座1: オイラー角とクォータニオン
技術講座2: 実用的な制御技術-伝達関数
技術講座3: 実用的な制御技術-伝達関数の基本要素
技術講座4: 実用的な制御技術-フィードバック制御とは
技術講座5: 簡単に解ける非線形最適制御-2輪車両の車庫入れ
技術講座6: 簡単に解ける非線形最適制御-2輪車両の縦列駐車
技術講座7: 揚力はどのように発生するのか
技術講座8: 円弧翼は迎角零でもなぜ揚力が発生するのか
技術講座9: 飛行機の縦系の運動方程式と空力係数
技術講座10:飛行機の横・方向系の運動方程式と空力係数
技術講座11:実用的な制御設計法-応答特性の改善
技術講座12:実用的な多目的制御設計法-ピッチ角制御
技術講座13:実用的な多目的制御設計法-ロール角制御
技術講座14:極の実部領域を指定したロール角制御
技術講座15:非線形最適制御-倒立振子の振り上げ問題
技術講座16:非線形最適制御-走行クレーンの振れ止め問題
技術講座17:横風に強いNDD機の飛行特性
技術講座18:KMAPの使い方(1),伝達関数の解析
技術講座19:KMAPの使い方(2),フィードバック制御の解析
技術講座20:KMAPの使い方(3),航空機の飛行制御1
(この講座はYouTubeで「KMAP研究会-技術講座**」(**は講座番号)で視聴できます.本書はこのテキストです.)
●本の紹介(20)
「飛行機の運動制御の基礎と応用」,片柳亮二 著,2023年9月
Amazonで販売中,POD版(税込4,620円),電子書籍(税込2,500円)
この本のキーワード:
・本書は,飛行機の開発において,飛行運動を安全に制御するための設計方法について,540頁のB4版(教科書版より一回り大きい版)にまとめたもので,運動制御の基礎から応用まで詳しく解説しています.本書は長年の実経験を踏まえた集大成としてまとめたものです.
近年の飛行機は高性能なフィードバック制御を行っています.これまで,開発の過程で多くのトラブルを克服して開発された種々の工夫を十分理解しておくことは重要です.飛行機開発プロジェクトの成功は,運動制御をいかに安全に設計できるかにかかっていると言っても過言ではありません.
飛行機の運動を制御するには,まず飛行機の運動について理解を深める必要があります.本書では,飛行機の運動方程式を導出した後,例題の飛行機データを用いて飛行運動の性質をしっかりと学びます.次に,フィードバック制御によって飛行運動の性質がどのように変化するかを学んだ後,実際の例題により,実践を通して運動制御の設計手法を学びます.
●本の紹介(19)
「ディジタル制御と実時間最適制御」,
片柳亮二 著,技報堂出版,2021年7月,(3000円+税)
この本のキーワード:
・前半ではディジタル制御の基礎的事項について述べ,後半では実時間最適制御を2点境界値問題として直接解く方法について述べる.
●本の紹介(18)
「コンピュータ時代の実用制御工学」,
片柳亮二 著,技報堂出版,2020年1月,(3000円+税)
この本のキーワード:
・これまでの制御工学の教科書では,手計算で解く例題がほとんどであったが,本書は実用的な例題をコンピュータで解く方法を解説しています
●本の紹介(17)
「簡単に解ける 非線形最適制御問題」,
片柳亮二 著,技報堂出版,2019年5月,(3400円+税)
この本のキーワード:
・非線形最適制御問題が簡単に解けます
・難しい理論は必要ありません
・モンテカルロ法の繰り返し計算で最適値を探索する単純な方法です
・理論的に解くのが難しい問題も容易に解が得られます
●本の紹介(16)
「KMAPゲイン最適化による多目的制御設計-なぜこんなに簡単に設計できるのか」,
片柳亮二 著,産業図書,2018年9月,(2500円+税)
この本のキーワード:
・難しい理論は必要なく簡単に設計できます
・制御系の安定性を厳密に計算できます
(保守的な結果ではありません)
・多目的制御設計(ロバスト安定性や外乱低減
など同時に設計)ができます
●その他の出版本の紹介
・最近のKMAPによる検討例
「テールシッター型VTOL飛行機の制御設計と運動シミュレーション」(検討中)(KMAP122~)

・テールシッター型の垂直離着陸(VTOL)飛行機は,離着陸時に機体が上に向いているという特殊な方式であり旅客機には向いていないが,方式自体は簡単であり,高速の物資輸送手段としては有効であると考えられる.離着陸時の姿勢制御に工夫が必要である.
(アニメーション-離陸~着陸)

(アニメーション-離陸後のロール)

「ティルトウイング型VTOL飛行機の制御設計と運動シミュレーション」(検討中)(KMAP122~)

・ティルトウイング型VTOL飛行機の難しさは垂直着陸時である.主翼の空気力で空中に支えている機体を,その主翼を上側に回転する必要がある.比較的低い迎角で飛行していた主翼の迎角が回転により増加するため,機体は上昇しようとする.しかし,ある程度回転すると,今度は主翼が失速して揚力が急激に減少して急降下することになる.これを上側に回転している推力発生装置により空中に支える必要がある.
(アニメーション-離陸) (ただし,主翼の動きは模擬していない)

(アニメーション-着陸) (ただし,主翼の動きは模擬していない)

「ホバリング推力固定型VTOL飛行機の制御設計と運動シミュレーション」(KMAP121~)
・機体を支える専用の推力発生装置を持ったオーソドックスなVTOL機について,飛行制御設計と運動シミュレーションは簡単ではないが,KMAPを用いると比較的容易に設計が可能です.
(アニメーション)

「実飛行の舵角を用いたKMAPシミュレーション」(KMAP121~)

・模型飛行機を用いて飛行力学の研究を行う大学等が増えています.作って飛ばすだけではなく,実際に飛ばした機体がどのような運動になっているのか,その機体の空力係数がどうなのかを調べると飛行力学の理解が深まります.
ここで紹介するのは,実際に飛ばした機体の舵角データを記録して,それをパソコンに入力することで,KMAPによる運動シミュレーションが可能となります.それにより,実際の飛行とシミュレーション結果の比較を行うことができ,どの空力係数が異なっているかなどを知ることができます.

・KMAPで簡単に解ける非線形制御問題の例
・KMAPで簡単に解ける最適化-走行クレーンの距離を指定した振れ止め問題
・KMAPで簡単に解ける最適化-走行クレーンの距離を指定した振れ止め(アニメーション)
・KMAPで簡単に解ける最適化-2慣性共振系の時間指定振動抑制
・KMAPで簡単に解ける非線形最適化-倒立振子の振り上げ問題 ・KMAPで簡単に解ける非線形最適化-倒立振子の振り上げ(アニメーション)
・KMAPで簡単に解ける非線形最適化-2輪車両の縦列駐車問題
・KMAPで簡単に解ける非線形最適化-変数制約のある非線形関数の最小値
・KMAPで簡単に解ける非線形最制御-非線形システムのフィードバック制御
・KMAPで簡単に解ける非線形最適化-2輪車両の車庫入れ問題
・KMAPで簡単に解ける非線形最適化-飛翔体の最適航法
・KMAP法で簡単に設計できる多目的制御-極の実部を指定したロール角飛行制御系
・安全な飛行制御系とは(4)-設計基準に安定余裕が規定されている
・安全な飛行制御系とは(3)-不安定な機体の制御には積分が必要
・安全な飛行制御系とは(2)-根軌跡で極の動きを確認しておけば安心
・安全な飛行制御系とは(1)-飛行制御則をシンプルな構成にすること
・KMAP法で簡単に設計できる多目的制御-ピッチ角飛行制御系(講演会用)
・KMAPゲイン最適化による多目的飛行制御設計3-安定余裕要求を満足するピッチ角制御系 

・曲線経路に対応した横・方向系オートパイロット
・技術者必携ツール-KMAPでボード線図を描く
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●運動解析プログラムKMAPについて --(目次へ戻る)--
運動解析プログラムKMAP は簡単に使うことができます.それは,飛行機の運動方程式や空力係数の推算など,これまで難しかった部分の作業はすでに組み込まれているため,ユーザーは解析に集中して作業ができます.また,本ツールは十分な解析精度があることが確認されています.さらに,航空機の飛行制御問題だけではなく,自動車,船,水中ビークル,ロボット,工作機械などの制御問題,また振動工学の解析も可能です.その他,構造物の弾性解析,流体力学の問題,熱の流れの解析,最適化の解析の各種工学解析手法の基礎も例題を通して学ぶことができます.
特に,制御系解析ツールは技術者にとっては電卓と同じで単なる計算道具です.難しい制御理論は後にして,とにかく使えるようにしておくと便利です.そういう意味で,だれでも簡単に使える制御系解析ツールKMAPの普及活動に力をいれています.
KMAP最新バージョンは左上にある「KMAPのダウンロード」から入手できます.
(KMAPの使い方や例題などを詳しく解説した下記の専用ホームページもご覧ください)
運動解析プログラムKMAPの専用ホームページへ
航空機の運動は,3次元空間上において6自由度の非線形運動方程式で表されます.この6自由度運動方程式を理解することは難しいことでありません.しかし,自分で6自由度運動方程式のプログラムを作って航空機の運動を解析することは簡単ではありません.それは,得られた解析結果がほんとうに正しいのか,という判断に困るからです.
また,最近のほとんどの航空機は,フィードバック制御系を構成して高性能化を図っています.飛行制御系を設計するには,非線形の6自由度運動方程式式を線形化して制御系を含んだ解析プログラムを新に作成する必要があります.
このように,航空機の飛行制御系の解析およびそれを含んだ6自由度運動方程式の解析は複雑です.これらの複雑な飛行制御系の線形解析および非線形の6自由度運動方程式によるシミュレーションなどは,KMAPを用いるとだれでも簡単に行うことができます.以下に説明するZ接続法により制御系の接続情報をインプットデータに記述するだけで,簡単に解析することができます.KMAPは,1つのインプットデータにより,飛行制御系の線形解析と非線形6自由度運動シミュレーションが同時に解析できる非常に便利なツールです.ぜひ使ってみてください.
--(目次へ戻る)--
●KMAPは何ができるのか --(目次へ戻る)--
■KMAP(ケーマップ)は次のような機能を持っています.
<新機能>KMAPゲイン最適化による多目的飛行制御設計(2)
(KMAP113~)
今回次のような多目的飛行制御設計が可能になりました.
設計目的①:アクチュエータを考慮
設計目的②:ゲイン余裕,位相余裕の要求値を満足して安定化
設計目的③:外乱応答のH∞ノルムを下げる
飛行制御系の設計では,ゲイン余裕および位相余裕がスペックによって要求されています.このような要求を満足する安定な制御系を得るために,H∞制御やLMIによる制御など数学的に複雑な方法が開発されています.ところが,ここで紹介するZ接続法ゲイン最適化による方法を用いると,この種の多目的設計問題を簡単に解くことができます.
推力ベクタリングによるホバリング飛行の例題にて,下記資料で紹介します.
KMAPゲイン最適化による安定余裕要求を満足する多目的飛行制御設計
<新機能>KMAPゲイン最適化による多目的飛行制御設計(1)
(KMAP111~)
今回次のような多目的飛行制御設計が可能になりました.
設計目的①:アクチュエータを考慮
設計目的②:制御系を安定化
設計目的③:外乱応答のH∞ノルムを下げる
多目的飛行制御設計の方法としては, H∞制御,LMIによる制御,遺伝的アルゴリズム(GA)を用いた最適化など各種方法が研究されていますが,いずれも数学的に難解であることから,一般のエンジニアが簡単に利用するにはなかなか難しい方法と考えられます.
このような多目的設計問題も,ここで紹介する“Z接続法ゲイン最適化”の方法を用いると簡単に解くことができます.Z接続法とは,制御系の各要素の入出力にZ番号を与えて,それらを接続することでフィードバック制御系を構成するもので,フィルタやフィードバックゲインを挿入した複雑な制御系を簡単な操作で構成することができます.
Z接続法ゲイン最適化法とは,制御系内のフィルタやフィードバックゲインの組み合わせを設定して,制御系における多目的の特性値を計算して最適解を求める方法です.ゲインの組み合わせ設定の方法としては,フィルタやゲインを適当に組み合わせて最適解を求めてもよいわけですが,これでは効率が悪いので,本手法では乱数を用いてゲインの組み合わせを作り,繰り返し計算にて最適な解を求めるモンテカルロ法といわれる方法です.繰り返し回数は100万回ですが,一般的なパソコンで数分程度が解が得られます.
推力ベクタリングによるホバリング飛行の例題にて,下記資料で紹介します.
KMAPゲイン最適化による多目的飛行制御設計
<新機能>要求値一覧表による飛行機の解析自動化
(KMAP106~)
航空機関連を解析するためのKMAPの操作性を全面的に改良しました.これまで,解析内容の全体がわかりにくい等のコメントもあり,解析項目の要求値等を一覧表として事前に設定する方式にしました.
実際の解析は,その一覧表のデータを選択して実行させるだけで,解析計算が自動的に行われます.この方式の採用により,解析内容が明確となるとともに,計算実行も途中のキーイン操作がないので簡単になりました.
例題が,【航空機の運動解析KMAPの専用ホームページ】の使い方および例題【4】<飛行機の制御系解析>の中にありますのでご利用ください.
<新機能>航空機の飛行制御系の解析が簡単にできる
ようにになりました(KMAP105~)

これまで,飛行制御系を含んだ航空機の運動解析は,制御則といわれる舵面操舵ロジックをインプットデータデータに組み込む必要がありました.例題のインプットデータをコピーして,それをユーザーが修正して制御則を構築するやり方のみを採用していました.
一方,飛行制御系の解析は,例えばダンパー機能やオートパイロットなどでは,ロジックは基本的には同じような形式ですので,予め各種パターンの飛行制御則をそのまま利用した方が効率がよく解析でき,ユーザーは簡単に解析作業に入ることができます.
このような観点から,今回新バージョンKMAP105から,各種のパターンの制御則を選択できる機能を追加しました.詳細は,【航空機の運動解析KMAPの専用ホームページ】の使い方および例題【4】<飛行機の制御系解析>の中に説明がありますのでご利用ください.
<新機能>飛行機の翼理論, 2次元ポテンシャル流厳密解による解析が可能になりました
(KMAP104~)
図(a) ジュコフスキー翼の流線 (迎角10°,ε=0.1, β=10°)
図(b) ジュコフスキー翼の翼上の流速 (迎角10°,ε=0.1, β=10°)
<新機能>航空機のスピン運動解析が可能になりました
(KMAP101~)
「spin_motion.Y160806.wmv」をクリックすると,スピン運動が再生できます.
このスピン運動解析の方法については,上記の「運動解析プログラムKMAPの専用ホームページへ」に説明がありますのでご覧ください.
<新機能>KMAP線図 (ブロック図の自動作画機能)が追加されました(KMAP92~)
図(a) KMAP線図 (ブロック図の自動作画機能)
このKMAP線図は,制御系のブロック図(下記の例参照)における信号の流れを,インプットデータとして入力したものを順番に表示したもので,インプットデータにミスがないかを簡単にチェックできます.
図(b) 航空機のピッチ角制御系ブロック図の例
(図(a)のKMAP線図に対応するもの)
<以降はKMAPの基本的な機能です>
①飛行機の運動シミュレーション
機体諸元(重量,慣性モーメント等),空力データ,制御則,パイロット操舵を入力することにより飛行機の運動がシミュレーションできます.
KMAPによる解析結果は,下記の図のようにExcel を利用して表示することができます.Excel 図は各種メニューが用意されています.(飛行機の三面図も簡単に描くことができます)

(下図のように飛行機の運動をアニメーションで確認できます)
「Duch_roll.wmv」をクリックすると,
ダッチロール運動が再生できます. 
「垂直離陸.wmv」をクリックすると,
飛行機の垂直離陸の運動が再生できます. 
「旅客機のホバリング.Y130609.wmv」をクリックすると,旅客機がホバリング後、前進飛行から右旋回する運動が再生できます. 
運動解析プログラムKMAPは,飛行機の運動解析,制御系設計解析(古典制御から現代制御まで),飛行機の概念設計(含む空力微係数推算)などの各種解析が可能です.
例えば,飛行機の運動方程式は知っていても自分でシミュレーションプログラムを作って解析するのは簡単ではありません.たとえ計算できても正しい答えであるかの検証は難しい作業です.KMAPは飛行機の運動方程式は既にプログラム化されていますので,ユーザーは空力微係数,機体諸元,アクチュエータ性能値などをインプットデータとして入力すれば直ちに運動シミュレーションができます.
また,飛行制御則もインプットデータにより定義することが可能です.KMAPは入門者に理論だけでなく,実際に計算を行うことで理解を深めて欲しいとの考えから開発したものです.ユーザが簡単に使えるように適宜改善しています.
②飛行機の安定性・操縦性解析
飛行機の飛行特性解析(安定性・操縦性の解析)についての詳細な検討結果が簡単に得られます.安定性・操縦性の解析とは,飛行機の尾翼の設計に対応します.6自由度の運動方程式を解く必要がありますので,これまでは時間のかかる作業でした.KMAPを用いると,性能要求を満足する機体諸元(機体重量,主翼面積等)を求めた後,安定性・操縦性の解析を行い,設計基準を満足するかどうかを表示します.
具体的には,以下のような解析を行います.
【縦系の飛行特性解析】 (機体固有および制御系含み) ①長周期モードの減衰比と振動数
②速度安定の条件
③飛行経路安定
④短周期モードの減衰比と振動数
⑤短周期モードのωsp・Tθ2
⑥短周期モードの加速感度n/α
⑦短周期モードのCAP (Control Anticipation Parameter)
⑧縦静安定と重心後方限界
⑨CAPによる重心後方限界
⑩離陸引き起こしと重心前方限界
⑪転覆角と重心後方限界
⑫重心許容範囲と 主脚位置

【横・方向系の飛行特性解析】 (機体固有および制御系含み) ①ダッチロールモードの減衰比と振動数
②ダッチロールの|φ/β|とζd・ωnd
③ロールモードの時定数TR
④スパイラルモードの振幅倍増時間T2
⑤エルロン操舵時のロール角速度振動
⑥ロール性能
⑦定常横滑り能力
定常横滑り能力の例 (横滑り角β=10°)

これらの飛行特性解析は,機体固有と制御系含みの2つの場合について,解析結果を表示します.特に,制御系を含んだ場合の飛行特性解析はこれまで難しい領域でしたが,KMAPでは自動的にシミュレーション計算等を行って解析を可能にしました.飛行機設計の時間が大幅に短縮できます.
③飛行機の空力データの推算
与えられた機体形状に対して空力データを推算して出力します.
(詳細は,本の紹介(5)をご覧ください)
④飛行機の概念設計と3面図作成
与えられた機体形状に対して空力データを推算し,性能要求値を満足する機体諸元(重量,翼面積等)を出力し,設計結果を3面図として表示します.模型飛行機から旅客機まで各種飛行機を設計できます.
(下記の機体3面図は,KMAPの解析結果で描いたものです.)



例として,800人乗りの超大型旅客機を試設計してみましょう.航続距離15,000km,離陸滑走路長3,000m以下,着陸滑走路長2,000m以下としてKMAPで設計した結果は次のようになりました.

航続距離 R =15,000km
離陸滑走路長 sTO= 3,000m
着陸滑走路長 Ld= 1,620m
接地速度 VTD= 120kt
離陸重量 WTO = 543tf
着陸重量 WLD = 319tf
自重 Wempty= 225tf
燃料重量 Wfuel = 238tf
乗員乗客+ペイロード Wfixed= 80tf
離陸推力 (T)to= 118tf
主翼面積 S = 824 m2
スパン b = 78.6m
アスペクト比 A = 7.5
平均空力翼弦 CBAR= 11.4m
前縁後退角(主翼) ΛLE= 41deg
翼面荷重 WTO/S= 659kgf/m2
推力重量比 (T/W)to= 0.218
このように,離陸重量543トン,スパン(翼幅)78.6mの機体が得られました.KMAPでは3面図も上記のように簡単に描くことができます.
また,KMAPでは設計と同時に空力微係数が推算されます.上記3面図の機体の場合は次のような結果となりました.
<空力微係数推算結果(着陸形態)>
CLα=0.1012(1/deg).................Cyβ=-0.01584(1/deg)
CLδe=0.00540(1/deg)...............Cyδr=0.00304(1/deg)
CLδf=0.0237(1/deg).................Clβ=-0.00463(1/deg)
Cmα=-0.0272(1/deg)................Clδa=-0.001138(1/deg)
Cmδe=-0.0203(1/deg)...............Clδr=0.0001355(1/deg)
Cmδf=-0.00743(1/deg)..............Clp=-0.419(1/rad)
Cmq=-27.0(1/rad)....................Clr=0.321(1/rad)
Cmαdot=-8.57(1/rad)................Cnβ=0.00300(1/deg)
k=0.0518(-)..........................Cnδa=-0.0000208(1/deg)
CD0(F/UP,G/UP)=0.01667(-).......Cnδr=-0.001613(1/deg)
CD0(F/DN,G/DN)=0.0507(-)........Cnp=-0.00438(1/rad)
CD|δf|=0.001202(1/deg).............Cnr=-0.293(1/rad)
この空力微係数を用いて,KMAP内では飛行特性解析,制御則設計,シミュレーションなど各種の解析が簡単に行えます.
⑤一般制御系の設計解析
飛行機以外の一般の制御系の設計解析も可能です.
極・零点配置
根軌跡
ボード線図
ベクトル軌跡
各種フィルタ演算
固有値計算
リカッチ方程式計算
最適制御
H∞制御
など,古典制御から現代制御までの種々の設計法が準備されています.
下記に航空機のピッチ角制御におけるLQI(サーボ系)の例を示します.縦系のピッチ角コマンドθm に対して機体のピッチ角θ を追従させる積分型最適制御系です.
飛行機のピッチ角LQI最適制御ブロック図
(このブロック図をクリックすると大きく見ることができます)
このときのシミュレーション結果を次に示します.ピッチ角θが目標値に良好に追従している様子がわかります.
(詳細は,本の紹介(3)をご覧ください)

⑥Z接続法による制御系設計ツールについて
Z接続法とは,制御系の情報をZ変数でつなぐことで制御系を構成していく方法です.これによって構成された制御系は,KMAPツールを用いてシステムの極・零点配置や周波数特性などを良好な特性にすることができます.

一般的に,システムの特性を表す伝達関数(入力に対する出力の特性をラプラス変換したもの)は上記のように,積分,1次遅れ,ハイパス,リードラグ,2次遅れ,2次遅れの微分,ノッチフィルタの要素の組み合わせで表すことができます.Z接続法では,この原理により,これらの各要素の入出力にZ番号を付与して,システム要素間の情報の流れを加減算することによって制御系を作り上げるものです.例題をいくつかご紹介します.
【例題1】航空機のラダー系の安定化制御
図1 航空機のラダー制御系ブロック図
図1に示すラダー制御系について,ゲインKとリードラグ時定数T1およびT2を,Z接続法ゲイン最適化によりシステムを安定化するように決定してみましょう.KMAPのインプットデータは次のように簡単です.図1のブロック図を順番にZ番号で接続していくだけです.このデータの後に,求めるゲインが記述してある行数を定義しておきます.このケースでは,92,93,94行目です.

ゲイン探索の範囲を指定して解析を実行すると,100万回のゲインの組み合わせの中から最適解を表示します.図2は安定解の存在範囲で,図の中の黒い点が極の位置を示しています.
図2 安定な極の存在範囲
得られたゲインを用いて,図1のRGAINを変動させて描いた根軌跡が図3です.左半面45°の非常に安定した位置に極が移動していることがわかります.
図3 Z接続法ゲイン最適化により得られた根軌跡

このように,KMAPを用いたZ接続法ゲイン最適化手法により,安定な制御系が簡単に設計できますので,ぜひ使ってみてください.
⑦船の運動解析
下記の船の運動(付加質量,付加慣性モーメントを考慮)解析も可能です.

⑧自動車の運動解析
下記は自動車の外乱運動特性の例です.


⑨ロボットの制御
下記の2リンクマニピュレータ制御系解析も可能です.


⑩工作機械の制御 下記の工作機械の位置決め制御系解析も可能です.

⑪振動工学の解析
下記の自動車の上下回転運動などが簡単に解析できます.

⑫構造物の弾性解析
下記は有限要素法による片持ちはりの曲げ解析の例です.


⑬流体力学の解析
下記は差分法による円柱まわりの流れの解析例です.

⑭最適化の解析法
下記は準ニュートン法を用いた最適制御の解析例です.


⑮フライトシミュレータ実験
金沢工業大学のフライトシミュレータはKMAPベースで動いています.上記①に述べたKMAPによる飛行運動シミュレーションで用いた同じデータをフライトシミュレータに入れると,直ちにフライトシミュレータ実験が可能となります.
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******************************************************************************** ●フライトシミュレータ-金沢工業大学 --(目次へ戻る)--
最新鋭の大型旅客機を模擬した本格的なフライトシミュレータで,KMAPで動いています.学生が設計した航空機のデータを入力することにより,飛行を体験しながら設計結果を評価できます.

●機体構造とリグ装置
大型旅客機の機体構造および舵面アクチュエータを模擬したリグ装置がフライトシミュレータと接続されています.
これまでのフライトシミュレータは全て数学モデルによる飛行模擬でしたが,リグ装置を接続したことによりフィジカルシミュレーションが可能となり,舵面作動の遅れも含む,より実際の飛行環境に近い状態で飛行特性評価が可能です.

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********************************************************************************●航空機の飛行制御システムについて --(目次へ戻る)--
私は三菱重工時代に,T-2CCV研究機(10年間),QF-104無人機(2年間),F-2機(8年間),飛行制御系開発に従事しました.特に,T-2CCVとF-2については計画の最初から飛行試験までを経験しました.F-2では飛行試験のとりまとめ者となったことから,パイロットからいろいろな事を学ばせていただきました.
飛行制御(操縦)システムは,飛行機開発の中で最も飛行安全に直結するシステムであり,絶対にシステムダウンしないようにする必要があります.これから飛行制御系開発にたずさわる技術者には,ぜひ安全な良い飛行機を開発して欲しいと思っています.
(研究テーマ“航空機の飛行制御”をご覧下さい)
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●本の紹介 --(目次へ戻る)--
●本の紹介(19)
「ディジタル制御と実時間最適制御」,
片柳亮二 著,技報堂出版,2021年7月,(3000円+税)
筆者は長らく航空機の飛行制御設計の仕事にたずさわってきた.その頃(1970年代),航空機の操縦装置はディジタル・フライ・バイ・ワイヤ(DFBW)といわれるコンピュータ制御のシステムが登場した時代である.コンピュータ性能はまだ貧弱であり,比較的長いサンプル時間でディジタル制御の性能を落とさないためのディジタル制御技術が大きく発展した時代であった.このような背景を踏まえて,本書では,ディジタル制御の基礎的事項について例題を用いてわかりやすく述べた後,後半では近年産業界においてニーズが高まっている実時間最適制御を実現する方法についてまとめたものである.ここでの最適制御とは,無限時間までの評価関数を最小にする最適レギュレータのような制御システムではなく,初期条件,終端条件を満足し,かつ評価関数を最小化する,いわゆる2点境界値問題の解を得るもので,しかも実時間でそれを実現する制御システムである.2点境界値問題を解くことで,システムを現在の状態から目標点に最適に誘導することが可能になる.しかし,一般的に2点境界値問題を解くのは簡単ではなく,しかも実時間で解くのはコンピュータが発達した今日でも難しい状況である.本書では折れ線入力離散値化という方法を用いてシステムを変換して,KMAPゲイン最適化という手法により,実時間最適制御を2点境界値問題として直接解くことを実現した.本書では,この新しい手法について具体的な例題を通して解説する.本書がこれから制御設計に携わるエンジニアの方の参考になれば望外の喜びである.
●本の紹介(18)
「コンピュータ時代の実用制御工学」,
片柳亮二 著,技報堂出版,2020年1月,(3000円+税)
著者は,長年航空機の飛行制御設計に携わってきた.もう45年以上にもなる.飛行制御システムとは,航空機がいかなる飛行条件の下でも,安定した飛行を実現しなくてはならない.しかもパイロットが操縦しやすいことが要求される.地上の乗り物のように調子が悪ければ一時停止することも許されない過酷なシステムである.著者が最初に本格的な設計担当になったのは30歳代前半である.日本初の不安定な機体をコンピュータ制御によって安定に飛行するフライ•バイ•ワイヤ(FBW)システムを搭載したT-2CCV研究機の飛行制御則の設計担当になった.著者は,T-2CCV研究機の開発で制御設計について多くのことを学んだが,その最も大きな事は,「制御の威力はすばらしい」ことと,「制御は使い方を誤ると不安定になり致命傷になりかねない」ということであった.まさに,飛行制御システムはクリティカルシステム(故障すると飛行不能となるシステム)であり,絶対に安全なシステムにする必要がある.長年このようなシステムを設計してきた経験が,少しでも将来制御システム技術者をめざす若い人たちの参考になればと考えたのが,本書をまとめる動機になっている.本書は,「コンピュータ時代の実用制御工学」と題して,簡単で実際の設計現場で役に立つ“実用的”な制御工学を学べる内容となっている.具体的には,制御系において重要な確認項目である,根軌跡,極・零点配置,安定余裕の確保などもしっかり確認した上で,状態方程式など現代制御理論の良い面も取り入れ,コンピュータを利用して複雑な問題も簡単に解を得ることができる設計解析手法を,演習を通して学べるようになっている.これまで昔ながらの手計算時代の制御工学では実際の問題には役に立たなかったが,コンピュータによって手計算から解放されて,簡単に解けるようになる.本書がこれから制御設計に携わるエンジニアの方の参考になれば望外の喜びである.
●本の紹介(17)
「簡単に解ける 非線形最適制御問題」,
片柳亮二 著,技報堂出版,2019年5月,(3400円+税)
近年の航空機の操縦装置は,フライ•バイ•ワイヤ(FBW)といわれるコンピュータ制御のシステムとなっている.著者は長らく航空機の飛行制御設計の仕事にたずさわってきたが,そのほとんどは線形制御系の設計であった.もちろん実際の飛行制御系には多くの非線形要素が存在するため,それらの非線形要素の影響については,シミュレーションによって検証していくという方法であった.いずれにしても,航空機の飛行制御系は線形制御の範囲内で設計するのが基本であった.これに対して,一般の制御系においては,非線形のダイナミクスをそのまま用いて設計する必要がある例が多い.例えば,倒立振子の振り上げ問題である.台車に乗っている振り子,台車を押すことによって真下に垂れ下がっている状態から真上まで振り上げてそこで止める問題である.勢いが強すぎると振り子は回転を続けて真下に戻ってしまう.丁度真上になったときに回転が止まるようにするには,台車にどのような力を加えたらよいのか,またそのときの時間を指定した場合はどうなるのか,これは初期条件と終端条件を指定した2点境界値問題であり解を得るのは簡単ではない.理論的に難しい2点境界値問題に代表される非線形最適制御問題を,本書では数学理論的な解の導出法から工学的な観点を加味して,より簡単に解を得る方法を紹介する.この方法は難しい理論を必要としないので初学者にも簡単に利用できる実用的で応用範囲の広い解析法である.本書は,多くの例題を通して非線形最適制御問題について学ぶことができるようになっている.これから制御設計に携わるエンジニアの方の参考になれば望外の喜びである.
●本の紹介(16)
「KMAPゲイン最適化による多目的制御設計-なぜこんなに簡単に設計できるのか」,
片柳亮二 著,産業図書,2018年9月,(2500円+税)
近年の飛行制御システムは,フライ•バイ•ワイヤ(FBW)といわれるコンピュータ制御のシステムとなっている.これにより非常に高性能な運動制御が可能になったが,その半面これまで遭遇しなかったリスクも抱えることになった.実際,過去にフライ•バイ•ワイヤシステムの不具合でトラブルに見舞われた機体が少なからずあるが,いずれも飛行制御則の不具合が原因である.フライ•バイ•ワイヤシステムのハードウェアについては,安全策としてはシステムを多重化することで対応しているが,飛行制御則についてはソフトウェアで操縦ロジックを作り上げているため1重システムとなっている.そういう意味で,飛行制御則の設計は,不具合を生じないように安全第一で設計する必要がある.
本書は,著者がこれまで40年以上,飛行制御則の設計や研究活動を通じて得た経験を踏まえて新たに考案した,簡単で実用的な制御設計法KMAP(ケーマップ)法について,例題を通じてまとめたものである.KMAP法は,制御系が単に安定であるだけではなく,その安定度も正確に指定して設計できるなど,安全が最優先されるシステム(飛行制御系など)に適した方法と考えられる.これから制御設計に携わるエンジニアの方の参考になれば望外の喜びである.
●本の紹介(15)
「飛行機の翼理論-揚力はどのように発生するのか(2次元ポテンシャル流厳密解による翼理論)」,
片柳亮二 著,成山堂書店,2016年11月,(2800円+税)
翼が飛行機を持ち上げる力(揚力)が発生する原理について,いろいろな説明がされてきたが,多くが間違っているともいわれている.その1つは,「翼の上下面の流れの等時間通過説」である.また,間違いではないが,「翼が動き出した際に翼のまわりに渦が取り残される結果として揚力が発生する」,というのが専門家による一般的な説明である.しかし,この説明では専門外の人が理解するのは難しいようである.
本書では,翼の流れを,ポテンシャル流という手法で非常に簡単に解析ができることを述べ,翼まわりの渦を用いなくても,揚力の発生を説明できることを示す.これから翼理論について学ぼうと思っている方は,参考にして頂けると幸いである.
●本の紹介(14)
「設計法を学ぶ 飛行機の安定性と操縦性-知らないと設計できない改善のための17の方法」,
片柳亮二 著,成山堂書店,2015年9月,(2600円+税)
飛行機は主翼により機体重量を支え,エンジンにより抗力と釣り合って飛行するわけですが,この釣合方法を工夫することによって効率的に長距離を飛べるか(巡航性能),短い滑走路で飛べるか(離着陸性能)など,いわゆる飛行性能の良し悪しが決まります.この機体上下および前後の釣合飛行は,力学的には単純な質点運動(重心の並進運動)として取り扱われます.
しかし,これだけでは飛行機を安定に飛行させることはできません.飛行機は重心の動きだけではなく,重心まわりの回転運動を伴うからです.この重心まわりの回転を釣り合わせるのが尾翼と操縦舵面です.回転運動により空中での飛行機の姿勢が変化すると,重力の作用する方向が変化して機体の上下,前後および左右の釣り合いが崩れて新たな運動が生じます.このように,飛行機の安定性・操縦性の問題を解くには,3次元空間において重心が3方向に移動する運動,重心まわりに回転する3つの運動,および機体姿勢を決める3つの姿勢角の合計9つの運動を解くことになり,その解は複雑です.(クォータニオンとオイラー角の関係についても詳しく解説しています).
さらに,問題を難しくしているのは,パイロットの操縦です.単に釣り合って飛んでいるだけではなく,パイロットの意図通りに機体が運動できなければ良い飛行機とはいえません.このように飛行機の安定性・操縦性の問題の奥は深いわけです.ところが,安定性・操縦性の良し悪しを解析する方法を説明した本はありますが,それを改善するにはどうしたらよいか具体的に書かれている本がほとんどありません.改善策を見いだすには実際に解析し,それを改善するための種々の案を数値的に確かめてみないとわかりません.
本書は,長らく飛行機の安定性・操縦性の解析の仕事にたずさわってきた経験を基に,例題を通して飛行機の安定性・操縦性の解析と改善の方法についてまとめたものです.これから飛行機の運動について学ぼうと思っている方は,参考にして頂ければと思います.
●本の紹介(13)
「例題で学ぶ航空工学-旅客機,無人飛行機,模型飛行機,人力飛行機,鳥の飛行」,
片柳亮二 著,成山堂書店,2014年6月,(2800円+税)
動力飛行機が開発されてから110年程になりますが,今の飛行機をみてみると,鳥の形と必ずしも同じではないことがわかります.人間はなぜ飛行機に垂直尾翼をつけたのでしょうか.垂直尾翼があると,横風で機体があおられてしまうため,風が強い日には欠航してしまいます.逆に,鳥はなぜ垂直尾翼を持っていないのでしょうか.
1940年代には,ノースロップ社が垂直尾翼のないフライングウイング機(全翼機といわれる主翼だけの機体)を開発しました.飛行には成功したものの,結局開発は途中で中止されています.1980年代末になると,飛行機の世界にも垂直尾翼のない機体が出現しました.その機体は,フライ•バイ•ワイヤといわれる飛行制御装置が開発された結果実現したものです.一方,鳥は尾羽である水平尾翼を回転させながら巧妙に垂直尾翼効果を作り出しています.その結果,鳥はあたかも体内にフライ•バイ•ワイヤと同じ制御回路があるのではないかと思える程,風の中を安定に飛ぶことができます.近年になって,人間の作った飛行機がやっと少し鳥に近づいたといえるのではないかと思います.
飛行機の開発には10年近くかかるため,タイミングが悪いと一度も開発を経験できない技術者も多い中,幸運にも2つのプロジェクトで,飛行特性や飛行制御の担当として最初から最後の飛行試験までプロジェクトに参加させていただきました.具体的な仕事としては,コンピュータ制御の飛行機をいかに安定に飛ばすかということで初飛行も2度経験しています.当時は飛行機になぜ垂直尾翼があるのか,なぜ今のような形をしているかなど,飛行機そのものについてあまり考えたことはありませんでした.設計の現役を退いた今,あらためて飛行機はなぜそのようになっているのか,について考えるといろいろと疑問が湧いてきました.本書は,飛行機についてこれまで当たり前に思っていた事項を,あらためてなぜそのようになっているのかをわかりやすくまとめたもので,飛行機のいろいろな疑問について理解を深めることができるよう工夫しています.
●本の紹介(12)
「例題で学ぶ航空制御工学」,
片柳亮二 著,技報堂出版,2014年1月,(2800円+税)
メーカにおいて70年代前半から30年以上,航空機の設計に携わった経験を基に本書をまとめました.特に80年代前半には日本で初めてのコンピュータ制御による電気式操縦装置(フライ•バイ•ワイヤ)の航空機の開発に参加しました.
最近,制御工学について次の2つのことを心配しています.その1つは,いわゆる“現代制御理論”による解析手法が制御系解析ソフトによって簡単に解が出せるようになったことで,従来から古典制御で基本的な特性として検討してきた極・零点,根軌跡,安定余裕などを確認しない設計者が多くなったことです.いくら理論的に安定が保証されていても,自分が設計したフィードバック補償器が制御対象の特性にどのような影響を及ぼしているのか,例えばゲインを2倍にしたら極はどのように動くのか,などを把握していなければ実システムで不具合が出た際にトラブルシュートもできません.
もう1つは,制御工学の教科書についてです.制御工学は設計技術者にとって必須の知識となっていますが,制御は難しいと感じている学生が多いのは残念です.確かに制御工学の教科書を開くと難しい数式が並んでいたり,複素数の複雑な数式を手計算させられたり,どんなに有用であるかを理解する前に嫌いになってしまいます.また,実際の設計現場では使わないようなラウス,フルビッツの安定判別法などをいまだに詳細に説明している教科書も多いのも事実です.制御系が安定であるかどうかは,解析ツールを用いて自分のパソコンで簡単に計算できる時代です.制御解析は電卓のsin,cosの計算道具と同じように,エンジニアとしての1つのツールとして身につけてほしいものです.
そこで本書では,航空機の飛行制御問題を題材として,制御工学が実際に役に立つことを理解してもらうことに重点を置いています.航空機の制御系は絶対に安全でなければなりません.設計した制御系はゲイン変動に対しても十分な安定余裕を持つように極・零点を配置することが重要です.本書は,安全な制御系を設計できる能力を身につけ,制御が実際に役に立つことを実感できるよう工夫しています.
●本の紹介(11)
「機械システム制御の実際-航空機,ロボット,工作機械,自動車,船および水中ビークル」,
片柳亮二 著,産業図書,2013年9月,(2000円+税)
本書は,各種(航空機,ロボット,工作機械,自動車,船および水中ビークル)の制御系設計問題をシステムの基礎的特性から応用までを具体例を通して解説したものです.
これらの機械システムは,システム単独では安定性が必ずしも良好とは限らず,外乱に対して不安定となる場合もあります.安心して利用するためには,システムを安定化する制御装置を設計する必要があります.“機械システム制御”とは,機械システムの特性を実際に運用し易いように自動制御技術を用いて改善することです.例えば,航空機を操縦するのはパイロットが行うとしても,パイロットが手を放した場合には,自動的に機体の姿勢を一定に保ったり,高度,速度を維持したり,パイロットが操縦し易い特性にしておくなど,自動制御技術は人を支援してくれる賢い機器なのです.
一方,機械システムに自動制御技術を適用する際には,注意すべき事項が2つあります.その1つは,制御は万能ではないことです.例えば,難しい模型のヘリコプタを空中静止させようとする場合は,ベテランの操縦者がうまく空中静止させることができないようなヘリコプタでは,自動制御を用いてもうまくいきません.制御対象の特性を制御し易いものにしておくことが必要です.もう1つは,自動制御機器を設計するには,制御対象の動特性(ダイナミクス)を十分に把握する必要があることです.システムは線形で動作するとは限らないし,想定外の事態に自動制御機器が逆に事態を悪化させることもあります.制御対象の特性をしっかり把握することが制御系設計には重要です.本書では,各章において機械システムの動特性を表す運動方程式を導出し,システムの基礎的事項を述べた後,制御系の設計解析の方法について具体例を通してわかりやすく解説しており,各種の機械システムについて基礎から応用までを学べる構成となっています.
●本の紹介(10)
「飛行機設計入門3(旅客機の形と性能)-どのような機体が開発されてきたのか」,
片柳亮二 著,日刊工業新聞社,2012年11月,(2800円+税)
本書は,飛行機設計入門シリーズの3冊目で,これまでどのようなジェット旅客機が開発されてきたかについて,機体形状と性能の観点から,分かり易く解説しています.
現在世界ではジェット旅客機が約18,000機運用されており,その内の半分以上が100~200席の旅客機で,200席以上の機体と100席以下の機体がそれぞれ25%程度となっています.なぜこれだけの機数が必要かというと,1年間に日本の人口と同じ数の人が地球を1周するほど飛行機を利用しているからです.20年後には,航空旅客数が現在の2.6倍になると予測されています.そのため,ジェット旅客機は現在の2倍以上必要となり,しかもその旅客機の80%は新規需要になるとみられています.この数を確保するには,現在の製造能力を1.5倍程度に増やさないと対応できない機数です.
このように将来に亘って多くの旅客機が必要となるわけですが,この内少しでも多くの日本産の旅客機を送り出すためには,エアラインにとって魅力ある旅客機を開発する必要があるます.そのためには,これまでどのような旅客機が開発され,エアラインに運用されてきたのかを知ることが重要です.どんなに性能が良くても,エアラインにとって魅力がなければ大空に舞い上がることはできず失敗作となります.新しい旅客機を開発するということは,メーカーにとっては会社の命運をかけた一大事業ですが,エアラインにとっても新機種導入は他社との競争に打ち勝つための一大決心事項です.英知を集めて開発した機体は,いずれも格好良く,古い機体と比べると性能は格段に向上しています.問題は,その機体が売れるかどうかです.このように失敗の許されない旅客機開発事業ですが,本書は開発された旅客機がなぜそのような形や大きさになっているのかを知ることができるようになっています.
●本の紹介(9)
「飛行機設計入門2(安定飛行理論)-飛行機を安定に飛ばすコツ」,
片柳亮二 著,日刊工業新聞社,2012年6月,(2400円+税)
本書は,2009年に出版した『飛行機設計入門-飛行機はどのように設計するのか』の続編で,飛行機を安定に飛ばすための工夫について,具体的な例で分かり易く解説しています.
最近,各大学では模型飛行機を飛ばすことが盛んになっていますが,学生達が模型飛行機を作って飛ばすまでを観察していると,最初はうまく飛ばなかった飛行機を,コツをつかむと急にうまく飛ばせるようになります.何事でもそうですが,コツをつかむまでが大変です.試行錯誤の上,失敗を繰り返しながらそのコツをつかんでいくわけです.このときに理論的な解析作業も同時に行うと,理論と実践の融合によりしっかりと飛行力学の基礎が身につくと考えられます.
人間が考え出した飛行機も安定に飛ぶための各種の工夫が施されています.本書は,飛ぶための工夫を理論的な裏付けを理解した上でしっかりと身につけてもらいたいとの想いからまとめたものです.単に作って飛ばすだけではなく,理論的に納得して解析を通して最適な飛行機を設計して飛ばすことができればいろいろな疑問が解消できます.その知識を基礎にして,新たに工夫された飛行機の開発も可能となります.著者は,企業において30年以上,飛行制御システムの開発を通して,飛行機を安定に飛ばすための工夫をしてきました.これから飛行機の安定飛行の理論について学び,自分なりの工夫を加えて新しい飛行機を設計しようという方は,本書により安定飛行のコツに触れていただければと思います.
●本の紹介(8)
「初学者のためのKMAP入門」,
片柳亮二 著,産業図書,2012年1月,(1000円+税)
“KMAP(ケーマップ)”とは“Katayanagi Motion Analysis Program”の略で,航空機の運動解析用に開発したソフトウェアです.これをバージョンアップする形で,ロボット,工作機械,自動車,船および水中ビークルなどの一般制御系解析や,振動工学の解析,構造物の弾性解析,流体解析,熱の流れの解析,最適化の解析など各種工学解析問題を扱えるツールとなっています.
一般に市販されている制御系解析ソフトウェアは高価であり,初学者が学習のために利用するのは難しいものです.KMAPはホームページから無料でダウンロードできますので,ぜひ活用していただきたいと考えております.制御の知識は技術者にとっては必須なものとなっています.理論をわかっているだけでは問題解決にはなりません.実際の問題に対して解析ができなければ会社では役に立たちません.制御の基本は簡単です.難しい理論はさておき,KMAPを電卓のsin,cosと同様に単なる計算ツールとして,自分のパソコンで使えるようにしておけば仕事の幅が広がります.
本書は,KMAPを初めて学ぶ人を対象に,どのような機能があるのか,どんな役に立つのか,その使い方などを平易に解説しています.KMAPの使い方を理解する早道は,まず簡単な例題を解いてみることです.制御工学は難しいと言って敬遠している方は,ぜひ読んでいただきたいと思っております.KMAPは,企業における多くの問題に対しても十分活用できる機能を有しています.操作も簡単で,初学者にも使い易いように工夫しています.
●本の紹介(7)
「航空機の飛行制御の実際-機械式からフライ•バイ•ワイヤへ」,
片柳亮二 著,森北出版,2011年4月,(3200円+税)
航空機の開発方法は,1970年代を境に大きく変化しました.それは1960年代後半に月に着陸したアポロ宇宙船のディジタルコンピュータを航空機に応用しようとする動きです.その後,従来の機械式操縦装置に代わって電気式操縦装置(フライ•バイ•ワイヤ)が用いられるようになりました.航空機設計チームには,飛行制御(コンピュータを用いた飛行操縦装置を設計)のグループが新に追加されて開発が行われるようになりました.制御を利用すると不安定な機体も安定に飛行できるようになるため,もはや空力グループだけでは機体の形状は決まらなくなったのです.このような背景から,現在では航空機の開発において“飛行制御”は非常に重要な分野となっています.
パイロットが操縦する航空機は,操縦方法が状況により急変する可能性があり,無人機の開発とは違った難しさがあります.安全な飛行を実現するためには,航空機の安定性とパイロットによる操縦性に関する事項をバランス良く設計する必要があります.本書では,コンピュータ制御の電気式操縦装置の発達について概観して,飛行制御に関する数多くの適用事例について解説を加えました.開発の過程で多くのトラブルを経験し,それを克服して飛行実証された電気式操縦装置の機体には多くの工夫が施されています.
本書は,企業において30年以上,飛行制御システムの開発に従事した経験を踏まえてまとめたものです.これから飛行制御技術を勉強しようという入門者には,ぜひ先達の知恵と努力に触れていただければと思います.
●本の紹介(6)
「KMAPによる工学解析入門」,
片柳亮二 著,産業図書,2011年1月,(3100円+税)
我々が利用している多くの製品は,複雑であるかどうかは別として,ほとんどがシステム製品です.小さいながらもその製品の中にはダイナミクスが巧妙に制御され,1つのシステムを構成しています.これらのシステム製品の設計・解析には各種の工学の知識が使われており,その意味からも,設計・解析技術者にとって工学解析は必須の知識となっています.
しかし,各種手法は微積分方程式や偏微分方程式で表されることが多く,簡単な例題に対しても解析解を求めることは簡単ではありません.一般的な問題に対しては,有限要素法や差分法などの繰り返しシミュレーション手法により近似的に解を求めることが行われます.このような各種工学解析の手法を学ぼうとする場合には,実際に自分のパソコンで解析計算を行ってその効果を実体験するとより深く理解することができます.
ところが,一般に市販されているソフトウェアは高価であり,入門者が演習のために利用するのは簡単ではありません.これを解消するために開発したのが解析プログラムKMAPです.KMAPは航空機の運動解析用に開発されたソフトウェアがベースとなっており,これをバージョンアップする形で,各種工学解析機能を追加したものです.
本書で扱う工学解析は,制御工学,振動工学,構造物の弾性解析,流体力学,熱の流れの解析,最適化の解析です.KMAPを用いて各種問題を実際に解きながらこれらの工学解析手法を学ぶことができるようになっています.ぜひ使っていただけると幸いです.
●本の紹介(5)
「模型飛行機から旅客機まで KMAPによる飛行機設計演習」,
片柳亮二 著,産業図書,2009年9月,(2600円+税)
飛行機にはいろいろな形があります.使用目的が異なれば最適な形状は当然違ってきます.しかし,たとえば高速飛行のみに適した形状であれば,主翼および尾翼の面積が非常に小さな機体が最適となりますが,実際の飛行機はそのような形状にはなっていません.いずれの飛行機も離着陸する必要があり,低速時において安定な飛行が可能であること,また離陸時の引き起こし能力も十分にあることが必要だからです.
幸いなことに,離着陸は空気密度の濃い地上で行われるために,主翼の揚力を増加させる工夫をすることにより,巡航時の速度の1/3~1/4の低速で飛行することができます.特に,着陸においては,抗力を増やした方が操縦性は良くなるため,フラップを大きく広げたり,降着装置を出すことが可能であるなど,いくつかの幸いが重なった結果で飛行機がうまく成り立っています.いずれにしても,実際にこれまで実現している飛行機は,種々の制約条件を満足した形状となっているわけです.
本書は,飛行機を設計する場合その形状はどのように決まってくるのか,どのような条件をクリアすれば航空機として実現可能となるのかを演習を通して学べるようになっています.本書による飛行機設計演習は,自分のパソコンで実際に解くことができる“KMAP(ケーマップ)”というソフトウェアを用います.このソフトウェアはホームページからダウンロードできます.
KMAPは航空機の運動解析用に開発されたソフトウェアで,これをバージョンアップする形で飛行機設計ルーチンを初心者にも簡単に使えるように機能追加したものです.KMAPでは,与えられた機体形状に対して空力微係数を推算し,性能要求値を満足する機体諸元(重量,翼面積等)を出力してくれます.
従来の授業では,空力微係数を手計算させていたため,時間がかかり設計作業がなかなか進みませんでしたが,KMAPを用いることにより,設計作業に集中することができ,授業効率があがりました.KMAPを用いて飛行機設計を楽しんでいただけると幸いです.
●本の紹介(4)
「飛行機設計入門-飛行機はどのように設計するのか」,
片柳亮二 著,日刊工業新聞社,2009年8月,(2400円+税)
飛行機を見て格好いいと思う人は多いのではないでしょうか.地上の飛行機もそうですが,飛んでいる姿はさらに格好いい.なぜでしょうか.その理由は明確ではありませんが,恐らく空気の流れが最も自然となるような流線型を基調とした流れるような形,言い換えれば自然と調和した形になっているからではないかと思います.
鳥が飛んでいるのを見るのも楽しいものです.人が鳥のように飛びたいと思ったのも無理からぬ話です.最初は鳥の翼のように羽ばたくことを考えましたが,結局不可能でした.今日のように固定の翼を利用したのはまさに人間の知恵でした.
ライト兄弟は風洞試験装置(筒の中に空気を流して翼の力などを計測する装置)を作り,主翼の性能を実験で確かめたそうです.重たい飛行機が空中に浮き上がる原理は単純です.重量よりも大きい機体上方に働く力(揚力)を発生させ,後ろ向きに働く抵抗力(専門語では抗力という)よりも大きいエンジン推進力(推力という)が得られれば飛行機は飛ぶことができます.
これほど飛行機が発達した理由は,固定翼が素晴らしい能力を持っているからです.その能力とは,畳1枚で自家用車1台を持ち上げられる効率のよい主翼であり,またそのときの抗力は揚力の1/15程度の小さな値であることです.例えば,100トンの飛行機は7トンの推力があれば飛行できます.
また,飛行機の形は多種多様です.もし揚力に対する抗力最小の機体を追求していくと皆同じような形になってしまう可能性もありますが,実際にはそうなっていません.それは使用目的に応じて最適な形があるからです.
本書は,飛行機を設計する場合,その形状はどのように決めるのかを解説したものです.一見複雑にみえる飛行機の形は驚くほど数少ないパラメータ(形状を決める数値)によって表されます.本書により,飛行機の形状設計法について学び,いろいろな飛行機をみるときの参考にして頂けると幸いです.
(以下,その一部を紹介します)
飛行機の形状はどのようなデータで決まるのでしょうか. 一見複雑に見える飛行機の形状ですが,この形状はどのようなデータ(パラメータ)で表すことができるのでしょうか.下図に示すように,一般的な飛行機の形は次の部分
・主翼
・水平尾翼
・垂直尾翼
・胴体
から構成されます.
この内,主翼と水平尾翼の形状は次の代表的な5個のパラメータで表すことができます(計10個).
①翼面積S
②後退角Λ
③テーパ比λ
④翼幅b
⑤上反角Γ
垂直尾翼には上反角はないので上記⑤を除いた4個,また胴体は2個(胴体長,胴体径)が代表的なパラメータです.すなわち,合計16個が飛行機の形を決める代表的なパラメータです.
ただし,細かく言うと,翼断面の形状,主翼と尾翼の距離,胴体に対する主翼および尾翼の上下位置等を決める必要がありますが,主要なものは上記16個のパラメータです.
では,これらの主要なパラメータが変わると形状がどのように変化するかをみてみましょう.以下に示すのは,後退角Λ,テーパ比λ,翼幅bをそれぞれ変化させた場合の飛行機形状の変化です.ずいぶんイメージが変化することがわかります.
(後退角Λのみを変えた場合)
(テーパ比λのみを変えた場合)
(翼幅bのみを変えた場合)

●本の紹介(3)
「KMAPによる制御工学演習」,
片柳亮二 著,産業図書,2008年9月,(2000円+税)
本書のKMAPは,航空機の運動解析用に開発されたソフトをバージョンアップする形で,制御系ルーチンを初心者にも簡単に使えるように機能追加したものです.
制御工学は設計技術者にとって必須の知識です.本書は,基礎から現代制御まで実際の設計現場で活用可能な知識とツールを提供します.
●本の紹介(2)
「航空機の飛行力学と制御」,
片柳亮二 著,森北出版,2007年11月,(3800円+税)
本書は,航空機の飛行力学を理解するための基礎となる運動方程式や飛行特性解析式について,その導出過程を省略しないで詳細に記述し,また飛行制御の基礎事項についても例題を通して分かりやすく解説した入門書です.
実際の航空機設計開発の現場の専門家にとっても知識の整理に役立つと思います.活用していただければ幸いです.
●本の紹介(1)
「航空機の運動解析プログラムKMAP」,
片柳亮二 著,産業図書,2007年7月,(1900円+税)
本書は,航空機の飛行運動シミュレーションや飛行制御系の安定性解析などの基礎的な解析をパソコン内で誰でも簡単に行うことができる「航空機の運動解析プログラムKMAP(ケーマップ)」のプログラム解説書です.(KMAPとは“Katayanagi Motion Analysis Program”の略) その特徴は以下です.
① KMAPのプログラムは,6自由度非線形運動シミュレーションと線形安定性解析の両方の結果を1つのインプットデータから得ることができる便利なプログラムです.従来は,制御系の安定性解析と6自由度シミュレーションは別々のプログラムを作成して解析する必要があり非効率でしたが,KMAPを用いることで同時作業が可能となりました.実際の航空機設計開発の現場でのセカンドチェック用ツールとしても活用していただければ幸いです.
② 航空機の運動方程式を学生に理解させることは比較的短時間で可能ですが,学生に自らプログラムを作成して運動シミュレーションや安定性解析を行わせることは難しいことです.KMAPを用いて例題を通して実際に計算を行うことで,より深く理解できると考えています.
③ 市販の制御系プログラムが非常に高価であり,学生や一般の人が自由に使えないこともKMAP開発の動機の一つになっています.
④ 金沢工業大学のフライトシミュレータ(上記参照)は,KMAPベースで動いています.従って,解析に用いた同じインプットデータを用いて,簡単にリアルタイムのシミュレータ実験を行うことができます.
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